打雲(鳥の子紙の上下に雲の文様を漉ぎ込む)

手透き和紙について

 遥か古、推古朝の頃より国の発展とともに歴史を育んできた和紙。地理的に国境を接することのない私達は、鎖国の終焉を迎えて初めて他国とのあまりの文化の相違を目の当たりにし、近代化を目標にひたすら邁進してきました。しかし最近、あまりにも容易に異文化と接する生活が増え、グローバル化社会の中で日本人としてのアイデンティティーを認識できるものが重要視され始めているように思います。

 春夏秋冬。

 温暖湿潤気候で育まれる草木や清水の恵みで形づくられる手漉き(てすき)和紙は、麻や楮、三椏、雁皮などの草木類を原料とし、煮熟や叩解などの漉き手の丹念な仕事を経て白く美しい靭皮繊維が取り出されます。漉き槽の中で、この原料と粘剤と呼ばれる黄蜀葵や糊空木などの植物の粘液とともによく撹拌され、漉き手はその粘性により水中を均一に浮遊している原料を汲み上げ、丈夫で均一な紙となるように簀桁を揺り動かしながら繊維同士を絡み合わせ一枚の紙を織り成していきます。麻や楮の繊維はとても長く丈夫でしなやかな紙となり、また三椏や雁皮でつくりあげられた紙は、繊細で光沢のある美しい紙となります。
 豊かな土壌と清らかな水、清浄な空気をつくり自らの成長に何百年とかかる「木」を伐採し作られる木材パルプによる日常的な洋紙とは異なり、一年で同じように成長する楮からつくりだされる和紙は環境にも優しく、紙となってからも呼吸し続けています。

手透き和紙の原料となる楮

 日本の自然の豊かな恵みを受けたものを、我が国で育まれてきた日本の心でつくられる「和紙」は、そのあたたかみや美しさは固より、日本文化の最たるものとして今私達に促すものがあるのでしょう。